テインが標準装備された鄭州日産「パラディン」とは?
テインが純正採用となった車種は鄭州(読み:ていしゅう)日産「パラディン」。鄭州日産とは、日産の中国での合弁会社。中国では海外の自動車メーカーが中国で自動車を生産するには基本的に中国国内の会社と合弁会社を設立しなければならず(ただしテスラは例外!)、日産は乗用車を得意とする東風日産と、ピックアップトラックやSUVを得意とする鄭州日産を立ち上げた。1993年のことなのでもう30年以上前なワケ。
その鄭州日産にはかつて輝かしい歴史を持つパラディンという車種があった。その輝かしい歴史とは、2003年に中国で生まれたパラディンを、2004年からの中国人ドライバーの中国チームでダカールラリーに挑戦しようというプロジェクトで、その後見事完走を勝ち得たというもの。
当時、中国国内では大きな話題となり、パラディンの名前はタフなSUVとして、中国国民の心に刻まれたのだという。しかし20年のときは流れ、かつての栄冠は中国のオジサン達には「おお、あの走破性で定評あるパラディンね」という反応も多いものの、若者世代にはいまいちピンとくるものがすでに無いものとなっていた。
そんな状況下、パラディンの車名は一時期途絶えていたものの、2023年8月に復活。ならばここらでもう一度そのイメージを盛り上げよう!と、いわゆる一周回ってきた状態だったわけ。そうしてダカールでの栄光からの20周年を記念した限定車発売を決定! その車両にテインの4×4 DAMPER GRAVEL 2が採用されたのだ。
この記念車を作ろう!という掛け声はもちろん鄭州日産の中からのもので、企画を担当した田村和久氏(企画開発当時は鄭州日産所属、現在は東風日産所属)が、「テインがなければこの20周年企画車は成り立たない!」というテインへの熱いラブコールを送って、両社のマリアージュが中国で実現したのだった。驚くべきはその開発期間で、およそ半年で仕上げたと言うから、テイン側のラブコールへの「良い返事」も想像に難くないってことだ(その短期間にはかなり苦労させられたそうだが…)。
バツグンのオフロード性能を発揮させるテイン4×4 DAMPER GRAVEL 2
そんなパラディン20周年特別記念車に採用となったテイン4×4 DAMPER GRAVEL 2の特徴は、ネジ式車高調であり、φ56mm大径ピストン、φ22mmの高剛性ピストンロッドを採用した単筒式、別タンク式であること。別タンクとすることで、十分なオイル量とストローク量が確保でき、放熱性と余裕ある減衰が可能となるし、なによりも見た目の「フツウじゃない感」も演出できる。これは国を問わずカスタマイズには重要なポイントだ。2way減衰力調整機構を備え、伸側/縮側それぞれに16段階の減衰力調整ができる。ユーザーにとって「後から変えられる」というのは、使ってみたこと無いものを購入するときには特に嬉しいポイント。
また、「ハイドロ・リバウンド・ストッパー(HRBS)」を搭載するのも大きな特徴。HRBSは、ダンパーが伸び切ったときの衝撃を柔らかくするもの。一般のダンパーでも縮みきったときの衝撃を和らげるものは多く見られるが、HRBSは逆の伸び切ったときの衝撃を小さくすることでクルマの挙動の安定、乗員へのショックや大きな音を伝えるのを防ぐ。結果として、耐久性の向上にも繋がる優れた機構なのだ。
20周年特別記念車の発表会は5つ星ホテルで開催
そんな4×4 DAMPER GRAVEL 2が装着されたパラディン20周年特別記念車は、鄭州市内の5つ星ホテル「Le Meridien Zhengzhou」で堂々の発表会が行われた。
中国国内のメディアが詰めかけ、鄭州日産を代表して毛力民氏、テインからは専務取締役
でありテイン中国工場董事長の藤本吉郎氏がスピーチを行った。藤本氏は、テイン創業メンバーであり開発者、ラリードライバーとして数々のWRC参戦経験を持ち、日本人初のサファリラリー優勝者でもある。また、ゲストにはかつてダカールを走破したドライバーであり、パラディン・ブランド・フレンドの周勇氏が登壇。当時のダカールラリーでの思い出や新型への期待を語っていた。
そうして発表されたパラディン20周年特別記念車は、テイン4×4 DAMPER GRAVEL 2以外にも、吸気をルーフの高さから供給できるシュノーケル、専用デカール、「TEIN INSTALLED」のエンブレムなどが標準装備され、トレーラーヒッチ、アンダーガード、ラゲッジルームの家庭用220VのAC電源などの装備類も装着可能だ。エンジンはノーマルと同じ2リッターターボエンジンが搭載されている。
走りの質感が違う4×4 DAMPER GRAVEL 2装着のパラディン20周年特別記念車
そんなパラディンにオフロードコースで試乗した。中国でもコロナの影響でアウトドアブームが起き、山間での楽しみの一つとして、自分のクルマでオフロードコースを走ることも流行しているのだそうだ。試乗コースも普段は一般ユーザーも思う存分走ることができるオフロードコースだった。
まずはノーマルパラディン。フレームに載るしっかりしたボディでかなりの凹凸や急勾配でもまったく不安なく走れる。足回りの前後ストロークも十分に大きく、ハードなコース作りながら駆動は通常の4H(パラディンの駆動制御は4Hのほか、2H、4Lの切り替え、前後デフをそれぞれロック可能)で、ステアリングさえしっかり握っていれば、一般の乗用車では到底無理な斜面、凸凹も難なくこなしてくれる。
一方、テイン4×4 DAMPER GRAVEL 2を入れた20周年特別記念車は、やや固められた足回りであるのは動かし始めから感じられる。動き始めからステアリングを切ったとき、ノーマルのユサっとした動きが抑えられ、フレーム四駆車にありがちな不安感や不快感が感じられない。
走りの面で特に違いを感じたのは、モーグルと呼ぶ左右の凹凸が連続して交互に現れるような路面で、テイン装着車が明らかに収まりがいいこと。片方が縮んだときにはもう片方が路面に沿ってシッカリと伸び、伸び切ったところでもHRBSのお陰で衝撃が伝わらず、次の縮みが始まると突っ張ることなく受け止める感覚だ。その動きを言葉で説明するよりも、同じ凸凹をノーマル比の感覚値5割増くらいのスピードで走っても、問題なく走れちゃうイメージといった感じといえばわかりやすいだろう。
今回は舗装路では試乗しいないものの、恐らく、高速などでの安定感も20周年特別記念車は格段に上だろうと予想できる。中国は相変わらずのインフラ整備ラッシュで縦横無尽に高速道路網も整備されている。今回取材の途中移動では、高速道路でおよそ450km、約5時間の移動をしたが、おおむね制限速度120km/hで途中トラックなどによる大幅な速度ダウンなどほとんどなく、快適であった。感覚距離換算で日本なら200kmくらいの移動に感じたほど。このような道路環境下で、高速での移動の楽さは今後重視され、磨かれていくのではと思えるし、テインのサスが本領を発揮できるシーンは広がるのではないか。
これから訪れるであろう中国のカスタマイズ文化
さて、中国でノーマルから変更して車検が通らない項目は、例えば、車高調などサスペンションの変更、タイヤサイズの変更(銘柄変更は可)、ホイールサイズの変更(デザイン変更は可、但しJWLなどの認証品に限る)、マフラー交換、ボディカラーの変更やステッカー貼り付けまでNGだというので、日本の規制緩和前よりも更に前時代的な状況。要するに中国での車検事情は、簡単に言えばノーマル部品と違うものは一切ダメ!な状況で、カスタマイズ車両は、車検の際には各部をノーマルに戻して通しているのが一般的だという(ただし、中国では乗用車の車検は新車で6年、以降2年、10年を超えると毎年)。
そのような状況下で、ノーマルで別タンク式車高調が装備されたパラディン20周年特別記念車は、まずは自動車に敏感な層に受け入れられ、それが一般の人に広まり、規制緩和にもつながっていくのではと思われる。
いくつのメーカー、ブランドがあるのかわからないと言われる群雄割拠の中国自動車業界、今後の流れとして、他人と違ったカスタマイズ、より良い製品を装着したい、といった要望はますます増えていくことは間違いないだろうし、内需拡大のために中国政府も規制緩和の方向へ動くことが予想される。日本のカスタマイズ技術や文化が広い中国に広がっていくことも夢ではないだろうと、テインの中国での展開を見せてもらってそう感じた。
取材協力 テイン:https://www.tein.co.jp/
[フォト&レポート:小林和久]